第4回「CHANGE」
大学選手権が終わってから早2ヶ月。
いよいよ筑波も岡崎航大選手(3年・体育)を新主将に迎え、新シーズンが本格的にスタートした。
一方、引退した4年生はいよいよ卒業。4年生を最後まで見てきた番記者として、担当した3年間を振り返りたい。
ラグビー部の番記者を務めることになったのは大学2年の2017年シーズンから。
番記者の活動は、前にパスしたり、落としたりしたら反則ということしか知らない状態から始まった。
初めての取材は関東大学対抗戦の初戦、慶應戦。ルールを覚えることに必死で、正直取材どころではなかった。
占部航典主将(2017年度卒)に試合の感想を尋ねると、「接点で相手のプレッシャーから後手に回ってしまった」と語った。
今でこそ当たり前に理解できるコメントだが、当時の私には「接点?」「プレッシャー?」「後手?」といった感じで一文丸々理解できなかった。
加えて、当時から仲の良かった田上徳馬選手(4年・体育)に、○分のプレーは何の反則か、○分には何が起こったのかなど、事あるごとに質問。
1年目はラグビーのルールを少し理解しただけで終わってしまった。
そんなノー天気な私とは対照的に、ラグビー部は苦悩と葛藤の日々を過ごしていたのではないかと感じる。
古川先生からは試合後に、「いつも勝てなくてごめんな」と謝られたのを今でも覚えている。
それでも、2年目は学生ラグビーの素晴らしさを味わった。
2018年は、昨年の全国大学選手権の結果から対抗戦5位まで選手権に出場できる。
もちろん5位での出場は考えていなかったが、そう簡単に早慶明帝の壁は崩せなかった。
選手権出場をかけた日体との大一番でも、勝利の代償にチームの大黒柱、前田土芽選手(2018年度卒)が負傷。
5位で選手権出場も決めるも、チームにとっては大きな穴が空いた。
試合翌々日にグラウンドを訪ねると、まだ現実を受け入れられない前田選手の姿が。
「4年生が活躍してケガと引き換えに選手権決めるって、なんかかっこいいだろ」。
無理矢理作った笑顔には、確かな悔しさが滲んでいた。
それでも、選手権の初戦、大東文化戦では、スタッフとしてベンチに立ち、最後の最後まで声を出して、グラウンドにいる選手を鼓舞し続けた。
試合は負けてしまったが、「感動し、感動させられるチームを作りたい」と語った大西訓平主将(2018年度卒)の想いは確かに伝わった。
愛くるしい表情と優しい性格で部員から愛された大西主将の最後の涙に、どれだけの後輩が次のシーズンでの再起を誓っただろうか。
学生スポーツは4年生が一番輝いていると再認識した瞬間でもあった。
しかし、この時点で今の4年生は早慶明帝に一度も勝つことができていない。
そして、昨年の選手権の結果から対抗戦に与えられた選手権の出場枠は4枠のみ。
選手権に出場するためには、4校の大きな壁を崩すことが絶対条件だった。
こうした現状を打開すべくスローガン「CHANGE」を掲げ、見事大きな変革を成し遂げた。
4年目で初めて慶應に勝利。ロスタイムでの劇的な逆転トライだった。
また競り負けはしたが、帝京とも最後まで接戦を演じた。
4位で進んだ選手権では、花園というアウェイの中、同志社に快勝。
ベスト4をかけた東海戦で敗れはしたが、勝利がどちらに転んでもおかしくない熱戦だった。
何が「CHANGE」したのか。
シーズンが始まる前に語ってくれた杉山優平主将(4年・体育)の言葉が全てではないかと思う。
「話さないと自分の気持ちは伝わらない」
新シーズンが始まる前、4年生は部に対する意見、不満、もっとこうしたいという要望など、全員がチームへの想いを打ち明けた。
もちろん同期の中だけではない。
A,B,Cそれぞれのカテゴリーで4年生が後輩に発信し続けた。
ジャージ渡しでは石川千暁副主将(4年・体育)、「4年生の一言」では各々が熱い想いを語った。
「まだ怪我から復帰できていない4年生もいる。ここで終わらせるわけにはいかない。彼らのために、杉山組4年生のために、全員で勝ちに行こう」(ジュニア選手権vs流通経済大学 レビューから引用)
中野大希選手(4年・体育)
「ほとんどの人だけじゃダメなんだ、全員が帝京大学に勝つという気持ちでいなきゃだめだ…」(対抗戦VS帝京大学 プレビューから引用)
厳しい言葉も涙の訴えも包み隠さず伝えた。
それは4年生だけではない。
3年生から1年生にも、自分の想いを伝えられる雰囲気がそこにはあった。
楢本鼓太朗選手(1年・人文)と児玉悠一朗選手(1年・体育)は対抗戦から毎試合のプレビュー、レビューの執筆を担当した。
楢本鼓太朗選手から
「試合内容は満点と言い切れるものではなかったと思います。思うように攻めきれず、流通経済大学の強いフィジカルと揺さぶる攻撃に耐え続ける辛い時間帯もありました」(ジュニア選手権vs流通経済大学 レビュー)
児玉悠一朗選手から
「下のチームでくすぶっている自分にとって、対抗戦に出て帝京大学に勝つというのはかなり遠い道のりであり、勝つというマインドを常に持ちながら練習をするのは正直難しいところではありました。ですが中野さんの一言を聞いて感化された自分がおり、どんな形であれチームの勝利に貢献するという気持ちを持ちながら行動している、自身としてはさらに引き締まった一週間となっています」(対抗戦VS帝京大学 プレビュー)
2人の想いは部員にも響いたのではないか。
1年生でありながらチーム状況を客観視し、ブログの中で本音を綴った。
筑波の強さは間違いなくチーム全体の一体感だ。
自分たちの気持ちを伝えることで、メンバー、メンバー外関係なく、全員が「日本一」という同じ方向を向いて取り組めていた。
3年目は筑波の強さを知った。
筑波の苦しみも喜びも見ることができた3年間。
特に最後の年は私自身も「CHANGE」させてもらった。
彼らの頑張りに応えたい想いで、担当していたJ SPORTSのコラムでは書き方や内容などにこだわって、従来とは異なった記事を展開することができた。
2020年の岡崎組は部員たちに、そして応援してくれる人たちにどんな景色を見せてくれるだろうか。
今度は一ファンとして筑波の活躍に期待したい。
最後に、古川先生、嶋﨑先生をはじめ、快く取材を受けてくださった学生の皆様に感謝申し上げます。
そして、外部の人間ではありますが、「From Pitch Side」にこうして記事を書く機会を与えてくれた塩井徹弘広報委員長、「筑波の心臓」石川千暁副主将にも重ねて御礼申し上げます。
筑波大学新聞
明石 尚之(体育4年)